ある日本人の英語

H. G. Wellsの小説「Kipps: The Story of a Simple Soul」の翻訳出版に向けた作業ブログ a one-man effort to translate a novel by H. G. Wells, “Kipps: The Story of a Simple Soul” (1905) into Japanese and publish the results

雑談:マーガリン

キップス(Kipps)にもマーガリンが出てくる。この文は上巻二章二節の二段落あたり、POD出版(予定)の日本語版なら(対応するものが)33ページにある。

What he put into Kipps was chiefly bread and margarine, infusions of chicory and tea-dust, colonial meat by contract at threepence a pound, potatoes by the sack, and watered beer.

キップスに投じたのは主に、パン、マーガリン、キクニガナとティーダストを煎じたもの、一ポンド三ペンス契約のコロニアル肉、袋のジャガイモ、水で薄めたビールだった。

 だからどうということはないのだが、ある人個人的には、ついつい、マーガリンというのは戦後のものという、印象がある。ある人は今から半世紀ほど前、小学校の給食では毎日マーガリンを食パンに塗って食べていたが、家に帰れば、記憶の中では、冷蔵庫にあったのはプラスチックのケースか牛の絵の厚紙の箱にはいっていたバターだ。そのうちに植物性マーガリンは植物由来だから健康的、というようないんちきな理屈と印象がおそらくコマーシャルで刷り込まれ、やがて大学教養学部での生物の講義中、ちょこっと「自然になかったものを現代になって人間や犬が消費しているだけだから、どういう影響があるかが不明で不安な気はしますね」というような感じの趣旨のことを聞いて、そうなのか、と思ったのは1980年頃だ。
margarineということばは19世紀にはあったらしく、自宅の本棚のもっとも使わない、下の窓際で重たく眠っている大きなフランス語の辞書を取り出して見ると、その項の最初の方に「1813」と書いてある。それが、その類の最初のものの発明された年号であり、ずばりフランスでなされたというのは、ウィキペディア先生の教えであるから、ここで繰り返すには及ばない。ただ、日本での呼称は古くは「人造バター」であったらしく(良い呼び方じゃないか)、1952年に「マーガリン」になったとのこと(つまらんが国際的には通じ易かろう)。だから日本語としては戦後のことばであるとも言える可能性はある。

マーガリン - Wikipedia

フランス語読みならマルガリンみたいになるのはもっともだが、英語は意外な発音になる。個人的には、テレビドラマでイギリス戦中か何の配給のマーガリンのことらしいがマージェリーンとか言っているわい、どんな綴りなのかしら??とわざわざ辞書を調べて、つまらぬ綴りでがっかりしたのがたぶん、二三年前の思い出だ。Goole先生に調べてもらうと、たとえばFoyle's Warシリーズ2エピソード3にmargarineが出てくる。

Foyle's War (2002) s02e03 Episode Script | SS