ある日本人の英語

H. G. Wellsの小説「Kipps: The Story of a Simple Soul」の翻訳出版に向けた作業ブログ a one-man effort to translate a novel by H. G. Wells, “Kipps: The Story of a Simple Soul” (1905) into Japanese and publish the results

オラフ・ステープルドンの「火炎」(∞ブックス)到着

 先月1日に出版申請、先月末日(2021/7/31)に出版された翻訳本がついに届いた。

本の印刷の状態、外観は良好。特に、背表紙の文字は正しい場所に出ていた。

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拙訳日本語版「火炎」(左)と底本「The Flames」(右)

 The Flames: A Fantasy

原作は1947発行の空想小説。短めで、全部で84頁しかない。

紹介文→手紙の文面(これが大部分、64頁)→エピローグ

という簡単な構成。(ウェルズ「キップス」やコンラッド「チャンス」とは異なり)普通に読める。「私」が旧友Cから手紙をもらい、Cが人類にとって大問題と信ずるその内容を「私」がここに出版、公表しますという話の本のようだが、早合点しないで最後まで読む必要がある。

著者は哲学者、オラフ・ステープルドン(1886ー1950)。近頃は Last and First Menの映画が話題になっている(かしら?)。主にその手の人類の未来史作品による寄与によってSF界で評価されている。拙者はそういう作品は読んでおらず、The Flames以外は賢い犬の話(Sirius)を知るのみ。

火炎

実は邦訳の意義はさほど大きくない。英語も読みにくくないし、既に試訳と解説があってインターネット上でも見つけられる*1

題名

邦訳の題名は案は「迎え火」「食熱蛾」「生ける炎」「引火妄想」等々、いろいろ考えたが、結局は原題の和訳らしいものにした。それでもなお「炎(ほのお)」「焔(ほむら)」「火の手」など選択肢があったが見慣れて意味も読みも明らかな「火炎」にした。

∞ブックス

デザインエッグ社のムゲンブックスは、ブログに入力する感覚で、だれでも簡単に自分の本を出版できるように設計されたシステムと理解していたが、その実際を知りたくて、使ってみた。単純な章立てで短い「火炎」は格好な実験材料と思われたが、それほどでもなかった。たとえば、手紙の章は長すぎて、ムゲンブックスのひとつの章のテキストボックスに入れることができず、分割して複数の章として入力するほかなかった。

ムゲンブックスの表紙作成の簡易ツールは使えて、表表紙だけはそれなりのものができる。が、背表紙に題名など入れられないのは容認しがたく、簡易ツールよりも、表紙全体のPDFを自前で用意する方法を選択した。ページ数の少ない本なので、文字がうまく背表紙に這入るか若干不安があった。表紙PDFはLibreOfficeのImpress(プレゼン作成ツール)で作成した。実は簡易ツールで作成されたものはまったく棄てられたわけではなく、本の中に(色刷り)タイトルページとして残っている。

「ムゲンブックスで出版された本は全てAmazonや全国書店で購入することができます」といわれる。今回Amazonから購入したが、見たところ価格の表示もなく、書店で売られる仕様の本に見えない。実際に書店から取り寄せられるか興味があったが、たぶん、取り寄せてくれる書店が日本各地に散在しているのかしら。拙者の近所の書店では、店員は親身に話を聞き調べてくれたけれど、結局、取り寄せはできなかった。

出版についてはスムースだった。デザインエッグ社の審査というものがあったが、5日に何ごともなく通過した。どういう審査をしているのか知らない。

印刷は良好。字がくっきり読み易い。紙は白い。表紙には光沢がある。

 

*1:浜口稔オラフ・ステープルドン著『火炎人類-ある幻想』、試訳と解題」が明治大学教養論集436(21)、443(1)にあった(2008、9年)