いつ終わるかわからない作業:訳文の再点検(41)
「キップス」の邦訳につき、ペンギン・クラシクスの注部分をチェックする作業の続き。
- 中巻3章注9のある文(tate-eh-tate)
- 中巻3章注10のある文(six weeks black, with jet trimmings)
- 中巻3章注11のある文(As you like it)
- 中巻3章注12のある文(nap)
- 中巻4章注1のある文(Foozle Ile)
- 中巻4章注2のある文(after Morland)
- 中巻4章注3のある文(Manufacture bicycles)
中巻3章注9のある文(tate-eh-tate)
"Coote," he asked, "wot's a 'tate-eh-tate'?"
「クート」と尋ねる。「ステート・エ・テートって何だか教えて」
拙訳の余分な「ス」は(底本ではないが)異本に'state-eh-tate'とあるのを採用したもの。Page:Kipps.djvu/248 - Wikisource, the free online library
注はtête-à-têteと正して辞書的定義を記す。tête-à-tête - Wiktionary
中巻3章注10のある文(six weeks black, with jet trimmings)
He paused for a moment on page 233, his eye caught by the words: "FOR AN UNCLE OR AUNT BY MARRIAGE the period is six weeks black, with jet trimmings."
一瞬、二百三十三ページで手を休めると、こんなことばが目に止まった。「義理のおじまたはおばに対して期間は六週間の黒、つけるのは黒玉の飾り」
拙訳の黒玉というのはおそらくウィキペディア記事からの情報。
注はキップスが服喪の章を開いたと説明。
中巻3章注11のある文(As you like it)
第5節にはいった。
Then she introduced the topic of a forthcoming open-air performance of "As You Like It," and steered past the worst of the awkwardness.
そして、これから催される「お気に召すまま」の野外公演を話題にし、この舵取りで最悪のぎこちない状況は回避された。
注は作品説明。お気に召すまま - Wikipedia
中巻3章注12のある文(nap)
第6節にはいった。
His attention was caught by a rubbed place in the nap, and, still thoughtful, he rolled up his handkerchief skilfully into a soft ball and began to smooth this down.
けばのこすったところが目についたので、考え続けながらも、ハンカチを巧みに巻いて柔らかな玉にして、それをならし始めた。
注はnapの辞書的定義。https://en.wiktionary.org/wiki/nap#Noun_2
中巻4章注1のある文(Foozle Ile)
その前後も引用する。
"It's a very good whiskey, my boy," said old Kipps. "I 'aven't the slightest doubt it's a very good whiskey and cost you a tidy price. But—dashed if it soots me! They put this here Foozle Ile in it, my boy, and it ketches me jest 'ere." He indicated his centre of figure.
×「わが子よ、あれはとても良いウィスキーだよ」と老キップスは言う。「間違いなく、とても良いウィスキーで大そうな値段だったと思うね。しかし―ああ無念、わしに合っておればなあ。ひょこっと、『へぼざけじま』にはいってしまって、ここが妙なんだよ。そしてここでやられる」と、自分の体の中央を示す。
注はFoozle IleをFusel oilと正して辞書的定義を記す。フーゼル油 - Wikipedia
拙訳はIleの読み替えに失敗しての誤訳である。素朴にアイルはオイルに訛るかもしれないが、その逆の現象である。想像するに、「正しい」発音をしようとしてそうなってしまうのであろう。拙訳は下線部周辺も修正せねばならない。「ふーぜる油っていうやつが這入ってるものだからね、・・・」
(再考)問題の文は、こう読めよう:(連中はウィスキーに)フーゼル油を入れて、それが私のここに当たる。最後の「当たる」(catchのところ)は怪しい。this (hereは無視してよい)はこの会話においてフーゼル油という語が初出であることを示している。
(反省)そもそもフーゼル油というものを知っていればFoozle Ileはそれのこととわかったろう。そうでなくとも(このあたりを最初に翻訳したときに用いた辞書ではないが)手元にある古いCOD*1によってでもFoozle Ileがフーゼル油のことであることに気づきうる。まず見出し語にfoozleがあり、その語源欄にfuselの項を参照している(cf. FUSEL)。そしてfusel項にはほぼfusel oilのことしか書いてなく、その定義に4行も割いているのだ。ペンギン・クラシクスの注よりも断然詳しく、(今は否定されているらしいが)酒を有害もしくは毒にする、とまで書いてある。
(発音メモ)foozleとfuselとの発音の差はooとu(ウーとユー)の違いにある。カナ書きすればフーズルとフューズルの違い*2。
中巻4章注2のある文(after Morland)
You cannot lead a conversation straight from the gastric consequences of Foozle Ile to Love, and so Kipps, after a friendly inspection of a rare old engraving after Morland (perfect except for a hole kicked through the centre) that his Uncle had recently purchased by private haggle, came to the topic of the old people's removal.
会話の話題を「へぼざけじま」〔フーゼル油に訂正〕による胃の変調からまっすぐ愛へ導こうとしても無理だから、キップスは、おじの趣味で最近値切って購入した、モーランドの絵に習う古く珍しい(真ん中にあいた穴のほかは完全な)彫版を仲良く鑑賞してから、老夫婦の住居の移転の話題に行き着いた。
注は人名説明(画家)。
中巻4章注3のある文(Manufacture bicycles)
Engineer. Manufacture bicycles."
技師だ。自転車の製造をしている」
注は自転車の流行、ウェルズの自転車愛好等をコメント。