翻訳チェック:白と黄
Kipps: The Story of a Simple Soul中巻七章四節、社会主義者のことばにある「white world」と「yellow」の処理が心もとない。
"But meanwhile we're going to have a pretty acute attack of confusion. Universal confusion. Like one of those crushes when men are killed and maimed for no reason at all, going into a meeting or crowding for a train. Commercial and Industrial Stresses. Political Exploitation. Tariff Wars. Revolutions. All the bloodshed that will come of some fools calling half the white world yellow.
「しかしその間、かなりきつい混乱に襲われるだろう。普遍的な混乱だ。会合や列車の人混みにはいったとき何の理由もなく人が殺されたり不具になるような、どこかで起きた衝突みたいなものだ。商業や工業の産業ストレス。政治的な悪用か搾取。関税戦争。革命。白人世界の半分を黄色と呼ぶ愚か者たちが引き起す、おびただしい流血。
「the white world」を「白人世界」と訳すこと自体は容認されそうだが「yellow」のほうは「黄色」でよいのだろうか。黄色人種、あるいは清を持ち出すべきだろうか。
そもそも下線部は何を指すか。発言者はおそらく1900年のロンドンにいる。黄禍論者のことか、むしろ義和団のことか。北清事変に関係すると思ってよいか?
まさか「yellow」を「臆病」と訳すことはないだろう。
参考にしているロシア語訳*1では、「yellow」のところがなんと「黒」になっている(「白を黒と呼ぶ」называют белое черным)。セポイの乱か?
いや、発言者は、これからのことを予言しているところだから、そのころの既成事実を指すことはないとも言える。発言者自体が黄禍論者という設定もありうるし、(日清戦争の後、日英同盟の前の)日本を意識しているという設定もありうる。
*1:Р.Облонская訳Герберт Уэллс. Киппс. История простой души