翻訳チェック:狩猟かクリアランスか
Kipps: The Story of a Simple Soulの翻訳に迷う箇所をまた一つ。「shooting」をどう解釈するかなのだが、中巻四章一節から、小さな店を畳んで引っ越せるかについての店主の発言。
Kipps/Book 2/Chapter 4 - Wikisource, the free online library
"When we do move," said old Kipps, "if we could get a bit of shootin'——. I don't want to sell off all this here stock for nothin'.
(?)「本当に引っ越すとしたら」と老キップスは言う。「ちょっとは、ばばんっと猟でも行ければな─ここの在庫品を二束三文で売り払うのはしゃくだ。
下線部について、参考にしているロシア語訳*1では、「近くで狩ができればよいのだが」の意味になっている(Хорошо бы поблизости было где поохотиться...)。忠実な訳とも言えるが、後の部分とつながりが悪い。そのせいか、あるいは横線の部分を解釈して埋めたのか「夢見て言った。それに」ともつけ加えている。*2
イタリア語訳*3では「在庫を少しは(現金化)処分できればよいのだが」のような意味にしている(se potessimo fare un po' di liquidazione)。shootを勢いよく出す(売れる)ととったのか売上が伸びるととったのか、打ち殺す(処分)ととったのか、意訳だとも思うが、文脈の中では自然だとも思う。主語がWeであったことともまったく矛盾しない。
*1:Р.Облонская訳Герберт Уэллс. Киппс. История простой души
*2:ある人の底本のテキストでは横線の直後に終止符はない。
*3:Valentina Capocci訳Lavinia Emberti Gialloreti改訂Kipps. Storia di un'anima semplice