ある日本人の英語

H. G. Wellsの小説「Kipps: The Story of a Simple Soul」の翻訳出版に向けた作業ブログ a one-man effort to translate a novel by H. G. Wells, “Kipps: The Story of a Simple Soul” (1905) into Japanese and publish the results

脱線:「チャンス」作業中に読み返した「どくとるマンボウ航海記」

ようやく、Joseph ConradのChance: A Tale in Two Parts邦訳「チャンス」の確認作業を終え、2月24日にPOD出版申請をした。四、五回見直したと思うがなかなか問題がなくならなかった。翻訳作業開始してから11箇月近くになる。

実は、その間「どくとるマンボウ航海記」も同じ回数くらい読んだ。

まったく別物ではあるが「チャンス」も、航海についての叙述も少しあるので、相互に連想する箇所がないでもない。

 

夜の操舵室はいいものである。そこは真暗で、明るい海図室からはいってゆくと、しばらくの間誰がどこにいるのか見当もつかない。──北 杜夫「どくとるマンボウ航海記」マラッカ海峡からインド洋へ

 

舵輪の真鍮部分もぎらりと光って、ぼんやり照らされた男の姿が燐光を発するかのように、水平線の背景である、輝きをちりばめた暗黒の上に浮き出る。──ジョゼフ・コンラッド「チャンス─前後二編からなる物語」後編第六章 ・・・月なき夜、天は星繁く、水は暗闇に

 

海の色や霧の記述に、もっと比較できる箇所がありそうな気がする。両者ユーモアが多いともいえるが、その方面で互いに連想したことはない。

 

それより思うのは、自分が何度読み直して修正しても、誤植の類において、書店に並んでいる(日本語の一般人向けの)本の品質に劣るであろうということだ。ケタ違いだ。

 

たとえば、間違い探しをしていたわけではないが、手元の「どくとるマンボウ航海記」には一箇所しか誤りらしきものは発見できなかった。それも、手元の一冊にはあるけれど(たぶん誤り)、もう一冊、実家の本棚にあるものにはそれがない(たぶんOK)のであった。

 

・・・などというより、ないと信じていたものが一箇所あってとても驚いた。この珍しい一件は、出版社にも指摘済みのつもりだけれど、数日前「読者の意見」みたいなフォームに入れただけで、控えも何もなく心もとない。書いているうちに、ここにも具体的内容を記録したくなった。イタリア語のPregoのカナ表記の問題である。

 

〈たぶんOK〉

ISBN 4-10-113103-1

昭和61年6月20日49刷

 p.168

「どうぞ」のルビが「プレゴ」

 

〈たぶん誤植〉

ISBN 978- 4-10-113103-0

平成24年6月15日92刷

p.166

2行目

「どうぞ」のルビが「プゴ」

 

 共に新潮文庫「どくとるマンボウ航海記」ゴマンとある名画のことなど