ある日本人の英語

H. G. Wellsの小説「Kipps: The Story of a Simple Soul」の翻訳出版に向けた作業ブログ a one-man effort to translate a novel by H. G. Wells, “Kipps: The Story of a Simple Soul” (1905) into Japanese and publish the results

いつ終わるかわからない作業:訳文の再点検(49)

「キップス」の邦訳につき、ペンギン・クラシクスの注部分をチェックする作業の続き。

中巻第8章注1のある文(dance programme)

She also left a thing like a long dance programme, from which dangled a little pencil in his hand. 

娘は長いダンスカードのようなものもキップスの手中に残し、それにぶら下がるのは小さな鉛筆だ。

注はdance programmeの説明。女性の手首につけるカードであり、そこに誰と踊るか相手を列挙してある、という。
初出ではない箇所に注がついてあることがたびたびあるが、この語句も第6章6節に既出である。もっともそこではカードであることが明らか。

(§2.6.6)"They give you a card to put your guesses on, rather like a dance programme, and then, you know, you go around and guess," said Coote. 

「カードを渡されるから、それをダンスカードみたいにして、答えを書いて当てるんだ。相手を替えて当ててまわる」とクートは言う。

中巻第8章注2のある文(Ludo)

"Hope you're fond of anagrams, Mr. Kipps—difficult exercise—still one must do something to bring people together—better than Ludo anyhow. "

「キップスさん、アナグラムズを気に入られるだろうと――難しいゲームです――でも何かして人々が交流できるようにしないと――少なくともルードーすごろくよりはいいでしょう。

拙訳の出だしは良くないので改良したい。注はLudoの説明。

中巻第8章注3のある文(mumps bandage

第7節にはいった。

Mrs. "Wogdelenk" wore a sort of mumps bandage of lace, and there was another lady perfectly dazzling with beads, and jewels and bits of trimming.

「Wogdelenk」夫人は、おたふく風邪の包帯に似たレースを巻いていて、別の夫人はビーズやら宝石やら細かな装飾品やらのキラキラで目が眩まんばかりだ。

注はmumps bandageの定義。包帯が下あごを回ることとパッドがあることしか言っておらず、拙訳のように処理してよいのかいけないのか不明。
この婦人はレースで顔を包んでいても包帯をしているわけではないと思う。

中巻第8章注4のある文(mill-race)

"I'm very sorry," he said; "I'm very sorry," half to his hostess and half to her, and was swept past her by superior social forces—like a drowning man in a mill-race—and into the Upper Sandgate Road. 

「たいへん申訳ありません」とキップスは言う。「たいへん申訳ありません」の半分は招いてくれた夫人に対し、また半分はアンに対するもので、上流社会の力を背に受けてアッパー・サンドゲート・ロードに向かって――水車用水路の流れにおぼれる者のように――アンの前をさっと通り抜ける

注はmill-raceの辞書的定義。

中巻第8章注5のある文(Cypshi)

He became aware that he was still wearing his little placard with the letters "Cypshi."

Cypshi」の文字が並ぶ小さいプラカードをまだつけていていることに気づいたのだ。

注はアナグラムCypshi、Wogdelenk、Sir Bubhの解を示す。

中巻第8章注6のある文(Cnidian Venus)

第3節。

With that, she had become as remote, as foreign, as incredible as a wife and mate, as though the Cnidian Venus herself, in all her simple elegance, was before witnesses, declared to be his. 

これによって、ヘレンは、はるか遠ざかり、異次元のものになり、妻とも伴侶とも信じえないものになり、それはあたかも、証人の前で、飾らない優雅さをさらけだしているクニドスのビーナス当人を指して、こちらは彼(キップス)のものですと宣言されるのと同じくらい突拍子もないことだ。

注はCnidian Venusがプラクシテレスをまねた4世紀の有名な裸婦像(彫刻)であると特定している。英語Wikipedia記事にAphrodite of Knidos, Roman Copy, 4th century CE とあるやつかしら。Aphrodite of Knidos - Wikipedia

herselfは「当人」というより「そのもの」であろうか(なぜ原文はitselfでないのか)?

中巻第8章注7のある文(deltoid)

Kipps' eyes rested for a moment on Helen's dazzling deltoid, and then went enquiringly, accusingly almost to Coote's face. 

キップスの目はしばらくヘレンの眩しい三角筋に留まり、それから説明を求めて、半ば責めるようにクートの顔に向けられた。

注は三角筋の辞書的定義。

中巻第8章注8のある文(Shorncliffe)

(He was not a soldier really, but he had caught a martinet bearing by living so close to Shorncliffe.

(本当は兵隊ではないが、あまりにショーンクリフに近い場所に住んだため規律に厳格になった)

注はShorncliffeに兵舎のあることを指摘。

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