ある日本人の英語

H. G. Wellsの小説「Kipps: The Story of a Simple Soul」の翻訳出版に向けた作業ブログ a one-man effort to translate a novel by H. G. Wells, “Kipps: The Story of a Simple Soul” (1905) into Japanese and publish the results

いつ終わるかわからない作業:訳文の再点検(9)

キップスの邦訳につき、ペンギン・クラシクスの注部分をチェックする作業の続き。

注29のある文(St. Bavon's)

その前文から引用する。

"It begins with a Nem," he said, doling them out parsimoniously. "M A U D," he spelt, with a stern eye on Kipps, "C H A R T E R I S."

Now, Maud Charteris was a young person of eighteen and the daughter of the vicar of St. Bavon's,—besides which she had a bicycle,—so that as her name unfolded the face of Kipps lengthened with respect.

「最初はエムだ」と言い、惜しむように少しずつ小出しに告げる。「M、A、U、D」と綴りのアルファベットを言いながら、その真剣な目はキップスに向いている。「C、H、A、R、T、E、R、I、S」

モード・チャータリス(Maud Charteris)というのは十八歳の娘で、聖バヴォンの副牧師の子であり、そのうえ自転車をもっている。だから聞いたことばが彼女の名前になると、尊敬の念によってキップスの顔が上下に伸びて驚きの形状をなした。

注はSt. Bavon's(教会)の実在しないことの指摘。

注30のある文(budded)

So they budded, sitting on the blackening old wreck in which men had lived and died, looking out to sea, talking of that other sea upon which they must presently embark....

こうして二人は大人になりかけながら、今腰掛けている、黒ずんでいく自分たちの難破船、そう、人が生き、また死んだその場所から海をながめ、これからやがて辿り着く別の海の話をしていた・・・

注はbuddedを言い換えて意味を示す。あったら役に立つありがたい注。この箇所は最初読んだとき意味がわからなかったのを思い出す。

注31のある文(rock chocolate)

第5節に進む。

And their favourite food was rock chocolate, dates, such as one buys off barrows, and sprats—fried sprats....

お気に入りの食べ物はロック・チョコレートナツメヤシ、そう、手押し車で買えるやつ。それにスプラット、焼いたスプラット・・・

注はrock chocolate菓子の説明。硬くてチョコ味だがチョコではないのかも。

拙訳の「手押し車」は「屋台」としたらわかりやすいが、そうしてよいものか・・・。などと迷ってから、そう訳すのはやめたに違いない。「買えるやつ」は「売っているやつ」「売り歩いているやつ」としたほうがよいかも。