ある日本人の英語

H. G. Wellsの小説「Kipps: The Story of a Simple Soul」の翻訳出版に向けた作業ブログ a one-man effort to translate a novel by H. G. Wells, “Kipps: The Story of a Simple Soul” (1905) into Japanese and publish the results

疑問詞whose

以前、「会社はだれのものか」というのをよく聞いた。もっと昔には「かわいいあのこはだれのもの」なんてのをさんざん聞いた。子供には「あのこ」が「あの娘」だとは想像もできなかった。そんな漢字を知らなかったのはもちろんだが。

ここで注目するのは「だれの」というと「もの」というのがついてくること。「あの◯◯はだれのですか」と言うときも「だれの」は(国文法がそう規定してるか否か知らないけど)私の感覚では暗に「もの」が隠されていて、実質、体言として捉える。これは英語でも同じだ。あるラテン語教科書の練習問題に、こんな文があった。*1

Whose is that horse?

ラテン語学習者は「くゆす・えすと・いっれ・えくうす」などと一語一語直訳すればよろしい。しかし、この問題文、英語としてはどうか。なんか落ち着かない気がする────が、これで正しい。イギリスの先生が書かれたのだから当然か。*2

先の「Whose」は代名詞として働く。次のように書いたほうが落ち着くが、この場合の「Whose」は形容詞。

Whose horse is that?

「だれの」を「私の」に置き換えて肯定文を考えると、前者にはThat horse is mine.後者にはThat is my horse.が呼応する。もはや学校でどう習ったかは忘れてしまったが、最近の高校英語参考書を見ると、前者の「Whose」は疑問詞、後者のは疑問形容詞としていた。代名詞、形容詞という説明は手元の次の本を参考にした。*3Michael Swan (1980), Practical English Usage, ISBN 0-19-4311856

 日本語、英語は(私見では)似たような感覚だが、どの言語でも共通とは主張するつもりはない。たとえばフランス語À qui est ce cheval-là?の誰の(À qui)に「もの」の気配はない(?)。

 先に疑問形容詞ということばが出てきたが、疑問限定詞という呼び方もある。英語だとそれぞれinterrogative adjectiveとinterrogative determiner。同様に所有形容詞、所有限定詞なんてのもある。先に出てきたmyはpossesive determinerだ、とかいうのであろう。mineはpossesive pronounだろう。myとmineで限定詞か代名詞か形のうえで区別できるが、hisはどちらの役も引き受けられる。whoseもそうなのだ。なのに限定詞としての使用ばかりに慣れてしまうと代名詞にもなれることを忘れかけて、Whose is that horse?なんておかしいんじゃないか、と思ったりするのであろう。Whose だけでも「だれのもの」になれると思い出せば、そんな疑いは消える。「あの◯◯はだれのものか」「あれはだれの◯◯か」の両方が英語でも簡単に言い分けられるわけだ。そしてどちらもwhoseで言えてしまうのだ。

そんなこと前から知っていたのか、忘れたことを思いだしたのか、はじめて認識したのか、自分でもよくわからない。普段whoseが代名詞でありうるという意識はもっていないように思う。

 

*1: Eleanor Dickey (2018), Learn Latin from the Romans: A Complete Introductory Course Using Textbooks from the Roman Empire, ISBN 978-1-316-50619-6

*2:ウィキペディア情報では米国人、英国のレディング大学の教授

*3:628番の記事。例文は違うし、そこにはどちらの用法が普通(多い)などとは書かれていない